2009年11月13日
久しぶりに太陽と北風がばったりであった。秋も深まってまもなく冬である。歩く人は時々吹く冷たい風を気にしてコートのボタンをしっかり留めて身を守るようにあるいている。
ちょうど、何年か前に太陽と北風が勝負したときもこの時期だったことを彼らも思い出していた。あの時の勝負はきっちりコートを着こんでいた旅人のコートを脱がすことであった。結果は北風が吹けば吹くほど旅人はコートをしっかり押さえ込み結果は風では脱がすことは出来ず、太陽が暖かい光を浴びせたことで暑くなった旅人はコートを脱いでしまったのだった。
それ以来、人に対しては強引な力よりも暖かいっ気持ちのほうが効果がある、ということが一般に言われるようになった。北風にとってはなんとも忌々しい結果におわったのだった。
ちょうどそんなことを思い出しているところを、二人の目の下をコートを着た旅人が歩いているのを見つけた。
北風は太陽に、‘ちょうどいい、この前のときのように同じような旅人がコートを着て歩いている。もう一度、二人で旅人のコートを脱がす勝負をしよう。‘と持ちかけた。太陽は‘もうこの前で勝負はついているんだよ‘というところを北風は‘もう一度やって見なければ判らない。今度は君から先に始めていいよ。‘といって渋る太陽に勝負を挑み、太陽はようやく‘それでは、あと一度だけだよ‘といってコートを着た旅人を照らしはじめた。
しばらくすると旅人は足を止めて空を仰ぎ、太陽の照りつける光をみながら額にうっすら浮かび始めた汗をぬぐっていたが、それを見ている北風はさほどあわてた風の無く、あさってのほうを眺めている。このままだと、北風の出番を待つまでも無く勝負はついてしまいそうなようすである。
(つづく)